自殺未遂を繰り返すご利用者様がいらっしゃいます。
今日も夕方にベルトで自分の首を絞めました。
しかし、いつも未遂に終わります。
それは何故か・・・
実行に移す前にナースコールを必ず押すのです。
つまり、本当に死ぬ気はないけど、死ぬほど辛いと
いう信号を発しているのでしょう。
死にたいけど、死ねない。
私にはその気持ちが痛いほど解ります。
スタッフがその方の居室に入れ替わり立ち代り
訪れては励まします。
何人も何人も・・・
だけど私はその方のベッドの脇に座り手を握ります。
『死ぬほど辛いんですね。今、辛くてたまらないのですね』
そう言葉をかけると、ポロポロと大粒の涙を流しました。
私は無言で手を握り、頭を撫でます。
決して励ましの言葉はかけません。
そうしても何の解決にならない事を私は知っています。
だから私は何も言えません。
ただ、自分の経験から、その辛さを身をもって知る事が
できます。
この経験もやはり私にとっては無駄ではなかったようです。
側について手を握る。
泣きたいだけ泣いてもらって、少し落ち着いてきたら
お話を聞く。 自分の経験も少しお話しする。
私が伝えたいことは『死にたくても死ねないという事は、
まだ自分がやるべき事があり、必要とされているから』
それだけは知って欲しいと語ります。
その後、徐々に笑顔が戻り、夕食も食べて下さいました。
食後のデザートにご自分で買った果物を一緒に食べました。
『美味しいですね』 そんな他愛も無い会話。
『またご馳走して下さいね』それはまた次があるという約束。
2時間余りをその方の居室で過ごし、仕事を終え、
洋服に着替え、帰り支度をしました。
帰る前にもう一度、その方の居室にお邪魔すると、
『素敵なコートね』と褒めて下さいました。
『ありがとうございます。 今度お貸ししましょうか?』と
私が言うと、『私が着たら、裾をひきずっちゃうわ』と
笑顔を見せて下さいました。
ひと安心・・・ ではありません。
自殺願望は繰り返し襲ってきます。
たとえ本当に死ぬ気がなくても、過って亡くなってしまう
事も考えられます。
長い長い戦いです。
施設に入居し、いわば死ぬまでをそこで過ごすという現実。
いかに過ごすか。いかに楽しみを作るか。
どのように満足いく日々を過ごして頂けるか。
それを考えるのも介護職の大きな役割です。